
Artist Interview
#07
稲村真耶
日吉大社、比叡山延暦寺の門前町として栄えてきた参道を上り、そこから下り始めた先、目線のまっすぐ先に見える琵琶湖が印象的な工房。
アンティークや古道具が好きという稲村さんの言葉通り、素敵な道具や飾りが所狭しと飾られ、ご自身の器もお店のように並べられた素敵な空間で、いろいろとお話を伺いました。



ー生まれが焼き物の街愛知県常滑市ということで、生まれたころから身近に焼き物があったのだと想像できますが、どういった経緯で陶芸をの道に進まれて、作陶することとなったのでしょうか?
陶芸家として活動を始めたきっかけを教えてください。
稲村さん:
中学3年生の時に進路を考える際、自立したいなという思いで一人暮らしを目標に、将来の職業選択について真剣に考え始めました。
でもOLをやっているイメージは付かなくて、どんな職業がいいのかなと思っていて、そん中美術の成績は5が取れていて、工作や絵を描くことが好きだったため、身近にある焼き物って面白うそうだなと思ったのが最初でした。
そんな時に、常滑で母親の英語レッスンに同行した際、そこで出会ったスペイン人の自由な発想による陶芸作品(ぐにゃぐにゃな湯飲みを作っていました)を見て、これでいいんだなと、凄い自由度の高い職業だなと思い、陶芸が専門的に学べる高校への進学を決意しました。
高校では、ろくろや手びねり、工業用セラミックなど基本的な技術を学び、特に石膏を使用したオブジェ制作がとても楽しかったです。
瀬戸の専攻科で2年間学んだ後、当初はオブジェ作家を目指していましたが、成功が難しいと思い、当時生活工芸が出始めた時期で内田鋼一さんや、三谷龍二さんなどが人気作家になり始めていた時期でした。
学校の先生の紹介で藤塚光男さんの弟子募集を知り、「これだ!」と思って弟子修行を経験しました。
器のある暮らし:
もともと師匠である藤塚光男さんはご存じだったのでしょうか?
稲村さん:
当時はSNSもなく、情報源は主に雑誌や図書館の資料に限られてて、師匠の作品を実際に見る機会も面接までありませんでした。ただ、白磁をやろうと思っていて師匠が磁器に染付だったので、修行を決意しました。
すぐ面接に行って師匠に「来て良いよ」と言われたので、卒業後4月から弟子入りし、4年間学ばせていただきました。
学校を卒業しただけで独立したりする人もいるけど、手が慣れていないので数が作れなかったりするので、手を慣れさせる訓練の時間が必要だと思っていました。
なのでどこかで就職して1日中器を作るという経験がないと、独立した時にやっていけないのではないかと思っていたので、大変なこともありましたがとても貴重で重要な経験を積みました。

ー工房をこの場所に選ばれた理由をお伺いしてもよろしいでしょうか
稲村さん:
弟子を4年間で辞めて、そのすぐ後に結婚して独立することになったんですけど、1年間だけ京都の右京区に家を借りて住んでて、窯を持っていると移動するのに凄くお金かかるんです。
電気工事もいるし、窯の移動に10万ぐらいかかっちゃって。 引っ越しするたび大きな出費が発生するので、これはもうどこか家を探さないと私の仕事は出来ないなと思いました。
そして探し始めたときにここが見つかって、それまで坂本に来たことなかったんですけど、とてもいい所だなと思い、今のこの土地の形がちょっと特殊で購入者がいなかっく、私たちで購入できる価格だったので、ここいいねとなり引っ越してきました。
器のある暮らし:
旦那さんも稲村さんの仕事を理解してくれて、一緒に移り住んできたんですね。
稲村さん:
旦那さんも私も海の近くの出身なので、なんか水が見えるところがいいよねみたいな話をしていてて、「あっ!琵琶湖があるね!」ってなりました。
京都にもその電車で20分ぐらいで行ける割りに田舎で、落ち着いてゆっくりした時間の流れを感じて、住み心地はいいですね。

ー透き通るような白磁に柔らかいニュアンスの染付が特徴の稲村さんの器。制作するうえで、大切にしていることや心がけていることはどのようなことですか。
稲村さん:
磁器は洗いやすく、香りも付かない、何ならちょっとレンチンもOK、そういう点が好きなんです。
磁器土は柔らかくて、作っている時の手触りも大好きなんです。
ベースは師匠と同じ九谷の磁器土をそのまま使わせて頂いているんですが、瀬戸の磁器土より青みがかった感じに仕上がるんです。
ふんわりと柔らかい雰囲気に仕上がるのが好みです。
ちょっと青みがかった感じが古い雰囲気に感じて、それが他の器と合わせやすさもあるように思っています。
主張しすぎずその場に調和する器が、使っていただける器ではないかなと思っています。
染付もふんわり柔らかく主張しすぎず、馴染む雰囲気を大切にしています。
その中にちょっとだけ色を足して、ちょっとだけ華やかになるようにという工夫を施しています。
制作方法は、型を使用しています。
型作りも好きなんです。
型だと丸以外の四角や多角形、そして模様を掘って陰影で表現するなど、様々な表現ができることで可能性が広がるので、型を使っています。
作っていると真っ白より模様が欲しくなって、更紗、動物はどうか?と考えていると、彫るのが楽しくなるんです。
器のある暮らし:
そう聞くと型作りはオブジェ作りに繋がるものがあるように、感じますね。
稲村さん:
確かに型作りがオブジェっぽいのかもしれないですね!
器のある暮らし:
いろいろ器が出来上がるまでに作業工程が多々あると思うのですが、型作りは好きな工程ですか?
稲村さん:
はい、好きです。
型は時間がかかるのですが、年に1回は作るようにしています。
大好きな工程です。

ー鳥や干支の蛇など、可愛らしい柔らかいニュアンスの絵柄のインスピレーションはどこから得ているのでしょうか。
また、釉薬の器もありますよね、染付と釉薬についてお話を伺えればと思います。
稲村さん:
初めて描いたのが鳥でした。
洋服や食器などいろいろな模様として使われていて、柄として成立する動物だなと。
そこからいろいろ動物を調べていくと、縁起物の動物などが出てきて楽しくなって、いろいろな柄が増えていきました。
古い絵からインスピレーションを得たり、古伊万里の本から絵や構図を学んだり、だんだん慣れてくると、映しではなくちょっと変えて自分なりの模様にしようとなってきました。
私は正倉院の宝物が可愛いと思っています。とてもおしゃれで洋風のシノワズリーみたいな感じで、鳥が花を加えてたり、鹿の頭に華が生えてたり、鹿の背中から気が生えていたり、とても素敵でインスピレーションを得て、それを参考にしだした辺りから、和風でも洋風でも合う器にしようとなってきました。
更紗も日本やインドなど、いろいろな本を見て勉強しました。
器のある暮らし:
いろいろな絵のバリエーションがありますが、どれも稲村さんが好きなものであって、その中に和でも洋でも使えるように上手に融合しているという感じですね。
釉薬についてはどうですか?
稲村さん:
ベースの透明釉は地肌が青っぽく仕上がるように、調整しています。
水色は琵琶湖の浜で拾った陶片をモデルにして、湖水釉という名前を付けています。
透明釉に本当に少しだけ呉須を加えて、作っています。(渋蒼釉も同じ作り方です)
あと、同じ釉薬だけど還元焼成と酸化焼成によって色の違いを出しています。
還元だと色が鮮やかに出て、酸化は渋めで温かみのある感じになるのが、面白いなと思っていろいろ作っています。
器のある暮らし:
全体的に優しい柔らかみのあるニュアンスですよね。
稲村さん:
お料理がのった時に邪魔しないようにということを意識して、作っています。


ー陶芸家でありお母さんでもある稲村さん。
子育てと仕事の両立、陶芸家ならではのお子さんへの思いを教えて下さい。
稲村さん:
家で仕事をしているので保育園で熱を出して迎えに来てくださいって時に、迎えに行けたのでその点はよかったです。
こどもの為にこの仕事という事は考えていなかったのですが、結果的に良かったなと思っています。
器のある暮らし:
お子さんはお母さんが陶芸家ってどう思っているのでしょうか?
稲村さん:
小さいときは保育園に行って帰ってきたら、仕事場でずっと一緒に過ごしていました。
粘土遊びをしたり、絵を描いたり。
小学生に上がってからはYouTubeに夢中になり、小さい頃は「私も陶芸家になる!」と言ってくれていたのですが、今はユーチューバーになりたいって言っています(笑)
家で使っている器が全てお母さんが作ったものって、特殊な環境だと思うんです。
割れ物の器を小さい頃から使っているので、丁寧に扱うようになっているといいなと思いますし、例えば木のパン皿の器はそんなに洗剤を使わなくていいなど、理解してくれていればいいなと思います。
いいものを分かっているんだなと思うのが、作家さんの高い器を使いたがるんです。
無意識にわかってるんだなと思います。
どんな大人になるか今から楽しみです。

ー暮らしの中で欠かせない「食べること」に直結する器、そんな器の在り方やその中でのご自身の器の意味について、どのように感じられているかお聞かせください。
稲村さん:
今の人は凄く忙しいので、ほうれん草のお浸しを盛り付けただけでも様になる、そんな日常にあって一緒に暮らせる器を目指しています。
簡単に作れるお料理が美味しそうに映えて、食卓が楽しいというのが食べる楽しみになると思うので、その点を大事だなと思っています。
あと、現代ってお料理も多国籍になっているので、それらを盛れる器、和洋折衷で様になる器を目指しています。

ー今後取り組んでいきたい新しいことはありますか?
稲村さん:
生きている限り仕事は続けたいと思っています。
自分の中で新しいものを作っていくのが楽しいので色がどんどん増えていくと思います。
上絵の赤絵に興味があってやり始めたので、バリエーションをどんどん増やしていけたらいいなと思っています。

・・・・
自分の言葉で丁寧にお話しされる姿がとても印象的な、稲村さん。
彼女の好きを突き詰める探求心、そして使い手のことを考え制作する思考が、バリエーションの豊富な器に結びついていることを実感しました。
実直で誠実な彼女の器は「一緒に暮らせる器を目指して」日々進化していくのだろうと、これからが作り出されていく器がとても楽しみになりました。
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ー 稲村真耶プロフィールー
1984年 愛知県常滑市生まれ
2003年 愛知県立常滑高等学校セラミック科卒業
2005年 愛知県立瀬戸窯業高等学校陶芸専攻科修了 陶芸家藤塚光男氏に師事4年間修行
2009年 京都鳴滝にて開窯
2010年 比叡山坂本に築窯