Artist Interview
#03
萠窯
石川県小松市に工房を構える萠窯さん。
竹内靖さんが素地を、竹内智恵さんが絵付けをされご夫婦で作陶されています。
九谷焼の伝統をくみ、繊細なフォルムの素地に鮮やかで上質な色絵や染付が特徴の器たち。
快く受け入れてくださり、沢山のお話をお伺いしました。
―陶芸家として活動を始めたきっかけを教えてください。
また、ご夫婦で1つの器を作り上げることに至った経緯もお伺いさせてください。
靖さん:
最初は陶芸家になろうという事は思っていなく、漠然と陶芸が面白そうだなと思って、陶芸の学科がある高校に通いました。
毎日片道2時間の道のりで大変だったんですが、そこから石川県立九谷焼技術研修所に入り、今までずっと続けています。
智恵さん:
絵を描いて暮らしたいなと高校生の時から思っていました。
その当時は美大に入りたいなと思っていたのですが…親の勧めで石川県立九谷焼技術研修所に入りました。
そこで陶芸を習い、九谷焼であれば絵を描いて暮らせるということ知りました。
そして、タイミングよく卒業時に当時初めて山本長左氏から、研修所卒業生を2名取っていただけるという事で、九谷焼の仕事につくことになりました。
器のある暮らし:
お二人の出会いはこの研修所で、1年間一緒に勉強された仲だったそうです。
靖さん:
形作るのが好きだった僕と、絵付けするのが好きな彼女、そんな2人だから分業できるなって思ったのがきっかけです。
智恵さん:
私としては、「上手いこと誘導された!」という感じです(笑)
―伝統を受け継ぎながらもどこか新しい、そんな印象を受ける萠窯さんの器。
作品作りへの思いや、ルーツ、インスピレーションとなるものはどのようなことや、ものですか。
智恵さん:
2人とも骨董が好きなんです。
靖さん:
今までにある古い器の形や雰囲気を残しつつ、今の生活で使いやすいようにサイズや柄をアレンジしています。
智恵さん:
例えば、お膳の中で完成された昔の形から、テーブルに白壁でブラインドという今の生活様式に合わせて、大きさやちょっとした形状を変えたりしています。
1人暮らしをしたり、結婚して最初に揃える器が白が多かったりすると思うんです。
その白い器をベースに、そこに次に何かを足すとしたら…最初に小さい器に色味を、次にちょっと大きめの染付の器、となるように次々手に取っていただけるバリエーションを考えて作っています。
靖さん:
器を作る時は、基本形から入ります。
料理人さんからこういうのが欲しいというオーダーをいただいたりします。
どんなお料理をどのように盛り付けるかまで決まっているので、それであれば大きさはこれぐらい、もう少し深くして…など試行錯誤したり、細かいサイズ指定もあったりして、自分の考え付かないアイデアに出会えたりと、料理人さんの意見はとても参考になります。
また、能登の二三味珈琲さんにもコーヒーカップを納めていたりと、こういった継続的なお付き合いの中から、新しいことを考えるチャンスやきっかけをもらっています。
そして、そういったオーダーから発展して、商品になった器もあります。
器のある暮らし:
だから手に馴染みやすく、盛り付けしやすい器なんですね。
ちなみに基本形からという事でしたが、この形の器にはこういう絵付けが良いというのは、どのように決められているのでしょうか?
靖さん:
形を作った段階で絵付けのイメージはなんとなく沸いているんです。
器のある暮らし:
ふわっと伝えられることを智恵さんが絵にするそうで…
最初は「これでどうでしょうか?」的な、添削を受ける時もあったそうですが、今は直接描いてしまってから見せることが多いそう。
これも夫婦歴と同じ、培ってきた信頼からの変化ですね。
ーご夫婦での作陶活動で今まで困った事、意見の相違などそういった事は今までありましたか。
智恵さん:
頭の中までは分からないので、もちろん相違はあります!
常にお互いにどこまで妥協できるかの探り合いですね。
先ほどの絵付けの話、わからなくても、「うん!わかったよ」と言って、自分のイメージで描いて仕上げていく。
そこからの探り合いなんです。
器のある暮らし:
つい先日も絵付けで意見の相違があったようで…私は、そのお話を笑顔で聞きながら、夫婦で作陶する難しさや楽しさを沢山教えていただきました。
ー作品を制作するうえで大切にしていることを教えてください。
靖さん:
料理を盛った時に、一番使いやすい器であることを意識して作っています。
手に持った時の重さ、大きさなど使いやすいように。
初めて作るものは、まずは試作品を作り自分たちで実際に使ってみる。
使っているうちに、もう少し大きい方が良いかなとか小さい方が良いかなとなり、何度か作り直して、仕上げていきます。
ー日々ご自身の器を使って食事をして、そして器を作られて…常に器に向き合っていらっしゃいますが、リフレッシュ方法などはありますか。
靖さん:
僕は山に行きます。
あとは、仕事は納期が決まっているので、仕事しながら出来るリフレッシュ音楽を聴いたりしています。
ー今回セレクトさせて頂いた器について、萠窯さんのこだわりのポイントをいくつか伺いました。
器のある暮らし:
まずは、昔から愛用している染付四方鉢(中)。
こちらは作る工程がとても難しいと聞いています。
靖さん:
四方鉢は板上にした粘土5枚貼り合わせ、組み立てて作っています。
何が難しいって真っすぐに取るのが難しいんです。
微妙な粘土の癖、乾燥での歪み、窯の中の温度の差での歪み…焼いてみるまで真っすぐ出来るか分からないのが難しいところ。
そして、大きければ大きいほど難しいんです。
そんな四方鉢は器合わせのアクセントに、お重みたいな形でハレの日に使っていただいても良い器です。
入れ子になるように、収まりが良いようにという事を昔から考えて作っています。
器のある暮らし:
今回口錆の有るもの、無いものと分けてオーダーしましたが…基本的にどういう考えで有無を考えられていますか?
靖さん・智恵さん:
締まる方が良いのかどうか、ここは意見が合います。
器のある暮らし:
シャモットについて、こちらもどういう考えで入れられているのかお伺いさせてください。
智恵さん:
骨董品の赤絵の鉢が荒々しい生地の感じで、そのイメージで作りたいと思いシャモットを入れたんだよね。
靖さん:
シャモット(砂・小石)は3種類の粒の大きさが違うものを、ミックスして入れ込んでいます。
生地は綺麗すぎると面白くない、手で作っているからどこかに手の感じを残したい、その方が安心感があります。
ー以前お話した際に、染付の器の合わせをお客様に聞かれる事があるとの事でした。そんな質問を受けた際、萠窯さんはどんなアドバイスをされるのでしょうか。
靖さん:
染付だけで全部揃えると寒々しくなるので、土物や漆などを合わせてそれぞれをアクセントとして引き立てて、使っていただきたいです。
本当に何にでも合う、無地の中に入れても派手過ぎない、主張しないのでオススメです。
智恵さん:
そうなんです、染付はお手持ちの粉引でも、ガラスでもどんなものとも合います。
萠窯は柄も沢山用意しているので、サイズが揃っていれば柄が違っても合わせやすい。
お好きな柄を選んで是非使ってみてください。
靖さん:
小さいものから取り入れるのが良いかと、蕎麦猪口だと使い回しが出来て、コーヒーも飲める、お茶も飲める、アイスを入れる、そして料理を入れても良いしオススメ。
器のある暮らし:
徐々にサイズを大きくして慣れていくのが良いですよね。
難しく考えず合わせを楽しみながら使っていただきたいです。
今回、私たちが提案しているように豆皿であれば色遊びも楽しめますね!
優しい表情で実直に応えてくださった靖さん、そしておおらかに常に笑顔で明るい智恵さん。
そんな素敵なご夫婦から作られる九谷焼の器、私は益々ファンになりました。
最後に、丁度伺った時期が山菜が採れる時期でその話でも大いに盛り上がりました。
智恵さんの憧れは、ゼンマイキャンプ!
ゼンマイは山奥に取りに行き、干すのに3日程かかるので、干しながら3泊くらいして戻って来るというキャンプをしたいそうです。
是非ご一緒したいものです。
ー萠窯 竹内靖プロフィールー
1988年 石川県立九谷焼技術研修所専門コース終了
1988年 卒業後 京都 九谷にて修行
1997年 萠窯 築窯
2010年 石川県伝統産業優秀技術者奨励者表彰
2010年 九谷伝統工芸士(成形部門)認定
ー萠窯 竹内智恵プロフィールー
1992年 石川県立九谷焼技術研修専門コース終了
1992年 妙泉工房 山本長左氏に師事
2010年 九谷伝統工芸士(加飾部門)認定