Artist Interview

#06

横田翔太郎

 

初めて降りたった焼き物「有田焼」の地。
佐賀県有田町で2代目工房禅として作陶されている横田翔太郎さん。
ご家族で経営されているカフェ”cafe Grenier”が併設されている工房は、綺麗に整理整頓され、大きな窓から気持ちの良い光が差し込む静かな場所。
奥から香るコーヒーの香りがなんとも落ち着く、素敵な工房にお邪魔しいろいろなお話を伺いました。

ー有田焼の地、佐賀県有田町で2代目工房禅として活躍されている横田さん。
高校卒業後、現在の道ではなくガラスメーカーに勤務され、その後現在の陶芸家へ。
陶芸家までの道のりや、当時の気持ちの変化について教えてください。

横田さん:
東京に憧れて、関東に行きたくて就職しました。
当時学校に求人が来ていて、高校の先輩が沢山勤めている会社に就職したんです。
そこで10年勤め、地元九州に帰りたかったこと、さらには元々ものづくりが好きだったこと、そして有田に生まれたので、一度自分の力で勝負してみようと思い帰ってきて、現在に至ります。

器のある暮らし:
東京に来て良かったことはありますか?

横田さん:
その経験は違うと思います。
田舎にいると同じ仲間としか話さない分、凝り固まってしまうので。
東京はいろいろな人がいるので、様々な社会勉強をさせてもらいました。
社会人としての経験が、今にも生きています。


ー「初期伊万里の雰囲気を出すため、土の配合から呉須の調合、釉薬まですべて自ら作り上げたものを使用」このようにお話しいただきましたが、その作品作りへの思いや、ルーツ、インスピレーションとなるものはどのようなことやものか教えてください。

横田さん:
単純に古いざっくりとした雰囲気が好きなんです。
(工房の裏手を指さしながら)その辺を掘り返すと出てくるんです。
元々この辺りが、江戸時代窯元だったので、そこを掘り返すと当時の器が出てくるんですよ。
そういう器を見ると、絵付けもざっくり、どろっとした釉薬の質感があって、こういう雰囲気が好きだなと、思うんです。
その雰囲気が好きなので、元々は入れていなかったんですが、今では磁器土に石を入れています。
石を入れることで雰囲気が出る、土物の要素もいれつつ、石が混ざることで景色が生まれる。
粗い感じも古さを出すとてもいいポイントになっています。
元々作っていた最初の作風は、泉山釉ではなく、石も入っていなかったんです。
ここ2年くらい前から石を入れて、泉山釉で仕上げる器を作り始めました。

器のある暮らし:
個展にお伺いした時購入させていただいた、「ロクロ型打ち5寸鉢鳥絵泉山釉」や「6寸リム皿泉山釉」が、もしかしてこの作風の作り初めくらいですか?

横田さん:
そうです、テストで作り当初は個展だけで出していた作品です。
そして、器のある暮らしさんが選んでいかれたこの器は、本当に初めてこの作風として作ったものですね。
これを選んだのを見て、びっくりしたのを覚えています。

器のある暮らし:
私もとても雰囲気のある、ちょっと懐かしい感じにとても惹かれて購入したのを覚えています。

ー絵付けについて、どのように学ばれたのでしょうか?

横田さん:
半年間有田町で就職した人たちの為に、基礎を教えてくれる後継者育成の場があり、そこへ通ったのですが…これが性に合わなかった。
きっちりした伝統的な手法を教えてもらえるのですが、それが性に合わなかった。
本来の有田焼はトレッシングペーパーをこすって、綺麗に線を出して、それをなぞっていくというやり方です。
ですが、父(工房禅 1代目 横田勝郎さん)も自由に描く絵付け方法で、それを見ていたので当たり前だと思っていたのですが、習いに行ってみたら全然違ったんです。
だから自分らしさを大事にやっていこうと思い、下書きをしないで描いていく今の方法で絵付けをしています。

器のある暮らし:
泉山釉と今のラフな絵付け方法のイメージが、ぴったり合っているように思います。

横田さん:
初期伊万里がこんな感じだからですかね。
焼き物って雰囲気だと思うんです。上手でも売れるわけでもない、料理をのせてなんぼだと思うので、それを考えて描いています。
そして、全ての原料をオリジナルにしているのは、自分でやらなきゃだめだなと思ったからです。
一から全部やるのが作家という、そんな変な意地もありやっています。とっても手間ですけどね。

ー器を制作するうえで、大切にしていることや心がけていることはどのようなことですか。

横田さん:
毎日使ってもらえる器を目指して作っています。
そこに尽きると思います。
料理が映える、使いやすい器が一番良いと思う。
そして、現代の食生活にあったもの、電子レンジの温めで使える、食洗機も使えるなど、そういうのを心掛けています。

器のある暮らし:
ご自宅ではご自分の食器を使うことが多いですか?

横田さん:
そうです、自分のばかり、あと父のも。
テストで作ったものを使ってみたり。
おすすめはしませんが…時にはオーブンに入れてみたりして、いろいろ試しながら使っています。
あと、使いにくかったり、重かったり、洗いにくかったり、そういうことで食器棚の奥に行かないように、作ることも心掛けています。

器のある暮らし:
食器棚の奥に行くと使いづらくなりますよね。
あとは、使わなくなる理由に染付あるあるかもしれませんが、合わせがわからないというコメントも多いんです。
実際に素敵だなと思って連れて帰ってみたはいいけど、家にある器を合わせてみたら何か合わないみたいな…

横田さん:
そういう点では、他の器と喧嘩しないように作っています。

器のある暮らし:
公式通販スタート当初に組んだ、「料理の映える青を取り入れたコーディネート」でスミレの器を使ったコーディネートをしました。
全然テイストの違う土物の作家さんと合わせたんです。
白と言っても全然表情が違って、粉引きは少し黄みがかった仕上がりで、横田さんのスミレは少し青みがかった白。
それを土物の瑠璃釉の青が繋いでくれて、温かみのある優しいコーディネートにまとまって、今でもお気に入りのコーディネートです。
他にも合わせてみると意外に他の器と喧嘩しないで、すっと馴染むそんな器だと実感します。


ー横田さんの優しいタッチの染付。絵柄やその表現方法について拘りや想いを聞かせてください。

横田さん:
日本の焼き物よりベトナムやインド、あとトルコのタイルなど、世界の焼き物の資料をよくみます。
見て書き出してみてそこから広げていく感じです。
日本の焼き物も見ますが、構図は和風だけど、仕上がりが和風っぽくならないようにしています。
あまり固いタッチが好きではないので、和風と洋風の中間くらいの仕上がりをイメージして、そこから広げていっています。

器のある暮らし:
今のお話を聞いて思い出したのですが、コーディネートしている時、ベトナムのソンベ焼きとの組み合わせも素敵だったんです!
横田さんの器は、本当にどんな器とも合わせやすいなという印象です。

横田さん:
染付だけだけど、そういう風に(合わせやすいという風に)持って行きたかった。
有田の染付は伝統工芸という感じでカチッとしている。
そうではなくオリジナリティを出したかったので、こういう作風になりました。


ー器のある暮らしについてどのような印象や思っていることをお聞かせください。

横田さん:
新しいなと思っています。
見せていなかった部分を見せていますよね。
盛ったものを見せれば良いところですが、料理する工程とか。
料理して、いろいろな器を使って、それらをコーディネートして、いろいろな角度で見せてくれることが新しいです。
セット売りも新しいなと感じました。
焼き物であまり見ない販売方法ですよね、一緒の窯元さんを集めてというのはあるけど…

器のある暮らし:
本来は皆さんいろいろな作家さんの器を使って、ご家庭で食事されていると思うので、こういう提案があっていいよねと思って、ご提案させてもらっています。
嬉しいお言葉、ありがとうございます。
そして、横田さんとの出会いは、高台小鉢からでした。
YouTube動画の節分ご飯で使ってご紹介したのが、1番最初です。

横田さん:
そうでしたね、やたらと注文が入って来るなと思ったのを覚えています。
インスタグラムのフォロワーも一気に増えてびっくりしました。
知り合いが紹介されているよって教えてくれて、それが初めて器のある暮らしさんとの出会いです。
YouTube見た時、センスいいなと思いました。
それでお声がかかったのでびっくり!
高台小鉢は家に居てつまらないだろうなと思って、コロナの時期に作ったデザインです。
ステイホームがあったからこそ、生まれた器です。

ー暮らしの中で欠かせない「食べること」に直結する器、そんな器の在り方やその中でのご自身の器の意味について、どのように感じられているかお聞かせください。

横田さん:
結局趣向品だと思っています。
どこでも器は買えるので、その中で必要とされている人に向けて作っています。
食べることって大事、その中で毎日飽きなく使ってもらえるという事に尽きると思います。
ちょっとでも人生を豊かにしてもらえれば、良いと思っています。

ー今後横田さん自身が取り組んでいきたい新しいことは、ありますでしょうか。

横田さん:
さっきもちょっとお話ししましたが(動画の撮影をしながら)赤絵、お茶道具を今後やっていきたいと思っています。

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今回横田さんのものづくりの動画も、撮影させていただきました。
1つ1つの工程を丁寧にご説明くださり、丁寧に手を動かす様子にとても刺激を受け、何を大事にされて作られているかを直に感じることが出来ました。
ご自身の好きなものを突き詰めた結果、唯一無二となった横田さんの器。
これからも好きを追いかけて素敵な作品を、世に送り出してくれることを願っています。
まだ動画を見ていない方は、是非ご覧ください。
お母様が淹れてくださったコーヒーが、とっても美味しかったので、お近くにお越しの際は是非お立ち寄りくださいね!
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ー横田翔太郎プロフィールー
1986年 生まれ
高校卒業後、神奈川にてガラスメーカーに10年間勤務
2016年 有田窯業大学ロクロ科卒業
有田町後継者育成にて絵付けを半年学ぶ
工房禅にて作陶開始