Artist Interview

#08

Enkel 室伏真美

 

様々な釉薬を彩り、カラフルな表現をのせた器を制作されているEnkelさん。
千葉の稲毛海岸にあるアーティスト支援する施設に工房を構えていると伺い、まだ厚手のコートを羽織っている季節に、商品を選ばせてもらうために訪れました。

 

ー陶芸家になるきっかけ、なぜ陶芸家になろうと思ったかを教えてください。

 

Enkelさん:

もともと器が好きだったことが、陶芸家を目指す一番のきっかけです。
以前は住宅メーカーで設計の仕事をしていて、住まいや暮らしに関わることがとても好きでした。内装やインテリア、美術品などを見るのも好きで、暮らしを彩るものに自然と惹かれていたんです。そんな中で、だんだんと「自分でも器を作れるのではないか」「作ることにもっと深く関わってみたい」という思いが芽生えていきました。

当時は愛知に住んでいて、陶芸教室に通っていました。そこでは、粘土に触れて形をつくる楽しさや、釉薬、窯のことなど、陶芸の面白さにたくさん触れることができました。けれど、教室では先生が多くの工程を担ってくださるので、自分で一から器を作ろうと思うと、まだわからないことがたくさんあったんです。
「もっと専門的に学びたい」という気持ちは、その頃から強くなっていきました。
ただ当時、本格的に陶芸を学ぶとなると、焼き物産地の専門学校に行くか、窯元で修行するか、美大で学ぶかといった限られた道しかなくて、なかなか簡単に踏み出せるものではありませんでした。

その後、結婚を機に関東へ来たときに、横浜いずみ陶芸学院というプロの陶芸家を目指す人のための専門学校があることを知りました。
そのときに、「いつかここでちゃんと学びたい」と思うようになったんです。
けれど、子どもが1歳になり、私も仕事に復帰しようと思っていた矢先に、主人の北海道転勤が決まりました。
保育園の受け入れ先もなく、家族で北海道・紋別へ行くことになり、仕事も辞めることになりました。
そんなとき、主人が「関東に帰ってきたら、好きなことをやっていいよ」と言ってくれたんです。
そこで私は、「帰ったら陶芸の専門学校に行かせてほしい」と伝えました。

北海道で4年半暮らしたあと、関東に戻るタイミングで、子どもたちも保育園に入れる年齢になり、無事に入園することができました。
そして私自身も専門学校の面接に合格し、ようやく陶芸の道へ一歩を踏み出すことができました。
今振り返ると、器が好きだった気持ちが少しずつ積み重なって、いろいろなタイミングやご縁が重なり、今の自分につながっているのだと思います。

 

器のある暮らし:

凄いキャリアチェンジのストーリーですね。

 

Enkelさん:

当時は、親から「どうして私立の理系まで出て、陶芸家になるの?」と言われたり、「子どもが小さいうちに保育園に預けてまで、自分の好きなことをするの?」と戸惑われたりもしました。
主人も最初は、私がそこまで本気だとは思っていなかったようで、周囲には反対や心配の声も多かったです。
でも、それでも自分の中で陶芸への思いは消えませんでした。
どうしてもこの道を学びたい、進みたいという気持ちが強くて、専門学校に通い、陶芸家になる道を選びました。

 

器のある暮らし:

お子さんは寂しい思いをしたかもしれないけれども、今はご自宅でお母さんの作った器でご飯を食べたり、お母さんの仕事を身近で見て知れて、とてもいい環境で感慨深い体験になっているのではないかと感じます。

 

Enkelさん:

そうですね、今はこどもたちが1番応援してくれています。
今では陶芸家になって本当に良かったなって思います。
そしてよく考えてみたら私が幼稚園児の時、土遊びが1番好きだったんです。
ビー玉みたいなキラキラした泥団子を大事にしてて、それを大人になっても続けてるだけなんじゃないかって思ったりもするんです。

 

ーEnkelさんの拘る釉薬について、いろいろとお聞かせください。

 

器のある暮らし:

Enkelさんと言えば、釉薬で見せる彩り。
今まで試した釉薬のパターンは300以上。
それだけやったからこそ初めてわかることが多くあり、今に生きているそうです。
その中でお気に入りだったり、実はこんな風に出来上がったなどエピソードを聞かせてください。

 

Enkelさん:

今回たくさん選んでいただいた“紫”は、私の中でも特に気に入っている色です。
専門学校に通っていた頃、先生方からも「こういう色は見たことがない」と言っていただいたことがあって、それ以来自分にとってとても特別な色になっています。
だからこそこの紫をもっと自由に、うまく使いこなせるようになりたいという思いがあります。

自分の中で「こういう色にしたい」と思い描いていたものに、ぴたりとはまる瞬間がたまにあるんです。
でも、それは本当にめったになくて、たくさん焼いても一年に一個か二個出るかどうかというくらいです。
特に紫は窯の温度にとても敏感で、棚の何段目に置くかといった位置の違いでも表情が変わります。
釉薬の厚みや焼き方など、いろいろな条件が重なって生まれる色なので、毎回「うまく焼けるかな」と思いながら窯を開けています。
しかも窯自体も少しずつ劣化していくので、「この前はうまくいったのに、今回は同じようにいかない」ということもよくあります。

でも、これは本当にいい色に焼けた、と思える作品は、不思議とすぐに選んでいただけることが多いんです。
見てくださる方にも、その良さがちゃんと伝わっているんだなと感じられて、とても嬉しくなります。
少し個性的で珍しい色合いかもしれませんが、だからこそ私はこの紫をとても気に入っています。

器のある暮らし:

この釉薬のこの感じが一番っていう目指す理想があると、楽しそうに話してくださった室伏さん。
その試行錯誤の時間も研究であり、彼女にとってとても面白い時間なんだと感じました。
その一方で必ずしも毎回この色に焼ける必要はないかもしれない、そこに面白味があるのではと感じたのですが、いかがでしょうか。

 

Enkelさん:

私は顔料は使わないんです。
顔料は、ある意味とても完成された素材だと思っています。
狙った色を安定して出しやすくて、失敗も起こりにくい。
でもその分もし不具合が出たときには、かすれてしまったり、色が剥がれてしまったりと、原因がはっきり見えやすいんです。
そうなると、「これは自分のせいだ」と明確に受け止めることになります。

その一方で、天然の素材には揺らぎがあります。
思い通りにならないこともあるのですが、その揺らぎがあるからこそ、ひとつひとつ違う景色が生まれるんです。
今日もたくさんの器の中から選んでいただいたものの中に、実は自分では少し失敗だったかなと思っていた作品もありました。
でもそういうものを「これがいい」と選んでいただけることがある。
そこに、ものづくりの面白さがあると感じています。
正解がひとつということではなくて、揺らぎの中から生まれる美しさがある。
私はそういうものを大切にしながら制作しています。

実は私は、小さい頃からお菓子作りが大好きなんです。
そして、お菓子作りと釉薬づくりは少し似ているように思っています。
お菓子って、卵、小麦粉、砂糖、バターといった限られた材料からできていますよね。
でもその配合や作り方によって、ケーキにもクレープにも、プリンやパンケーキにもなる。
釉薬もそれと似ていて、長石(ちょうせき)や珪石(けいせき)といった限られた素材の配合を少しずつ変えるだけで、質感や風合いが大きく変わります。
さらに、そこに鉄や銅などを加えることで、色も変化していくんです。
釉薬は素材を調合して、器にかけて、窯で焼く。
お菓子も材料を混ぜて、生地を作って、オーブンで焼く。
その工程にはどこか共通するところがあるように感じています。
小さい頃からお菓子作りでもいろいろなレシピを試しては、焼いて、食べて、また工夫して、ということを繰り返していました。
そうやって少しずつ違いを試しながら、自分なりに深めていくことが昔から好きだったんです。
その感覚が、今の釉薬づくりにもつながっているのかもしれません。

 

器のある暮らし:

研究家な一面は幼い頃から発揮されていたんですね。

 

Enkelさん:

好きなものに関しては、昔からそういうところがあったと思います。
例えばチョコレートケーキひとつとっても、本当にいろいろなレシピがあるじゃないですか。
「これは何が違うんだろう」「どのレシピが一番おいしいんだろう」と思うと、気になっていろいろ試してみたくなるんです。
釉薬もそれと同じで、まずはとにかくいろいろ試してみようと思いました。
そうやって何度も比べていくうちに、ケーキのレシピを見ても「これはきっと自分の好みに合いそう」「これは少し違うかもしれない」と、だんだん感覚的にわかるようになってくるんです。

釉薬もまさに似ていて、いろいろ試していく中で自分の中でしっくりくるものや、本当に使いたいものが少しずつ見えてきます。
たくさん試した上でその中から選び取っていく感覚は、お菓子作りととても近いように思っています。

 

ー陶芸の制作過程で、どの工程が一番好きですか?やっぱり釉薬でしょうか?

 

Enkelさん:

焼き上がった作品が入った窯を開ける瞬間は、やっぱり一番テンションが上がります。
どんなふうに焼き上がっているのか、その瞬間は毎回特別です。

でも、本当はろくろを挽く工程が一番好きなんです。
今は子育やいくつか教室を持っているので、作業できる時間が半日ほどしかなく、その中でろくろにしっかり時間をかけるのが難しい状況です。
そうなると、どうしても作品数を作るために、鋳込みや型を使った方法に頼らざるを得ない部分もあります。
もちろん今のやり方にも意味はあるのですが、もう少し生活が落ち着いたら、もっとろくろに向き合う時間を持ちたいと思っています。
子どものことがどうしても優先になるので、もう少し落ち着いてじっくり制作できる環境がほしいというのは、最近よく感じていることです。

そして、この4月で活動を始めて4年目になるので、自分のブランドらしさや世界観のようなものも、これからさらに整理して育てていけたらと思っています。
なので結果として一番好きな工程は、ろくろです。

 

器のある暮らし:

お話を聞いて思ったことは、のめり込んで研究する中で、ロクロを回す時間が心の整理整頓みたいな感じのような印象を受けました。
でも原点は砂場で泥団子を作っていたあの頃の感覚、やっぱり作るのが好きという想いから全ての行動が繋がっているように思います。

器のある暮らしの発信は、器の使い方だったり、その器を使う楽しさだったり良さを、生活に馴染んだ状態でお届けする事だと思っています。
どんな風に使ったらもっと食事の時間が楽しくなるよとか、自分が毎日作ってる食事のこの一瞬を豊かにできるかとか、そういうことをもっとお伝えできたらいいなって思ってやっているので、今回もその想いが伝わるように展覧会を開催させてもらえたらと思っています。

 

Enkelさん:

自分の好きな色に触れると気持ちが少し明るくなったり、元気をもらえたりすることってあると思うんです。
私は「色には力がある」と感じていて、その力を器の中で表現したいという思いから、好きな色を大胆に取り入れています。
そして、その器を誰かが暮らしの中で使ってくださること、日常の風景の中に自然と溶け込んでいくことは、私にとって本当に大きな喜びですし、ありがたいことだと感じています。

私の技法は、釉薬で彩ると書いて「釉彩」といいます。
この表現方法をされている方はそれほど多くないように思うのですが、だからこそ今までにない表情の器を生み出せる面白さがあります。
これからも、まだ誰も見たことのないような器を作っていきたいと思っています。
色は少し大胆で個性的に見えるかもしれませんが、使っているのは天然の素材なので、お料理をのせた時にも不思議とすっと馴染みます。
日々の食卓の中でも、無理なく楽しんでいただける器になっていたら嬉しいです。

ー暮らしの中で欠かせない「食べること」に直結する器、そんな器の在り方やその中でのご自身の器の意味について、どのように感じられているかお聞かせください。

 

Enkelさん:

もともと住宅関係の仕事をしていたこともあって、器も単なる“お皿”としてだけではなく、インテリアのように飾って楽しめる存在であってほしいという思いがあります。
ただ同時に器はやはり暮らしの中で使われてこそ、その魅力が生きるものだとも感じています。
例えば、焼きそばをのせるだけでも少し元気が出たり、買ってきたお惣菜を盛るだけでも気持ちが明るくなったり。
忙しい日々の中でも、器ひとつで食卓の空気が少し変わることがあると思うんです。
“お料理をのせるだけで少し気分が上がる”、そんなふうに日常にそっと彩りを添えられる存在になれたら嬉しいです。

 

器のある暮らし:

基本的にレンジもOK、食洗器もOKと言うのは、そういうことに配慮したこだわりだったんですね。
子育て世代の作家さんの視点がちゃんと表現されてますね。

 

Enkelさん:

作家としての活動はこの春で4年目になりますが、社会人として過ごしてきた時間や、母として過ごしてきた時間のほうがずっと長いんです。
だからこそものづくりをするときも、自然とそちらの感覚が根底にあるのだと思います。
この器を使うことでお母さんたちが少し元気になったり、仕事をしながらごはんを作る方たちの気持ちが少し明るくなったりしたら、嬉しいです。
色の力で、日々の暮らしの中に少しでも元気を届けられたらと思っています。

 

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「色には力がある」というように、実際にお料理をのせてみると気持ちがぱっと明るくなり、晴れやかな気持ちになるEnkelさんの器。
その想いを形にするべく実直な研究と、子育て世代の陶芸家らしい視点で作り上げた作品たちが、各ご家庭で皆様を元気にそして笑顔に出来ていたら、私たちも嬉しいです。
以前別の展覧会でお見かけした花器が素敵だったので、次回はインテリアとしても使っていただける花器もお取り扱いさせていただきたいなと思っています。
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ーEnkel 室伏真美 プロフィールー
2023年 横浜いずみ陶芸学院卒業
2023年 第43回浦安市美術展 教育委員会賞
2023年 第94回新構造展、全日本美術新聞社賞
2024年 浦安どんぐりころころにて 初個展
2025年 第95回新構造展 一般奨励賞